ブログ
歯の移植ができるって知ってた?
歯を失った場合、ブリッジ・入れ歯・インプラントが一般的な選択肢だと思われがちですが、実はもう一つの方法があることをご存じですか?
それは、「歯の移植」という治療法です。
自分の健康な歯を別の場所に移植し、再び使えるようにするこの方法は、自然な噛み心地を取り戻すことができるため、非常に魅力的な選択肢となっています。
今回は、この“歯の移植”についてお伝えします。
1.歯を抜いた後の選択肢
<ブリッジ>

両隣りの歯を支えにして人工の歯を固定する方法です。
見た目が自然でしっかり噛めますが、健康な歯を削る必要があります。
耐久性があり、比較的短期間で治療が完了します。
<入れ歯>

取り外し可能な人工の歯を装着する方法です。
費用が比較的安く、手軽に治療できますが、違和感を覚えやすく、噛む力が落ちることがあります。
定期的な調整が必要です。
<インプラント>

顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上に人工の歯を装着する方法です。
天然の歯に近い噛み心地が得られますが、手術が必要で、治療期間も長めです。
また、定期的なメンテナンスが欠かせません。
<移植>

自分の健康な歯を抜いた部分に移植する方法です。
親知らずなどが利用できる場合に適していますが、条件が限られ、成功率も個人差があります。
2.歯の移植とは?
<移植と定着の仕組み>

歯の移植(自家歯牙移植)は、自分の健康な歯を抜いた部分に移植する治療法です。特に親知らずなどを使うことが多く、移植する歯と移植先の条件が合えば成功しやすくなります。
ポイントとなるのが「歯根膜」という組織です。
歯根膜は、歯の根と骨をつなぐクッションのような役割を持ち、再生能力の高い細胞がたくさん含まれています。健康な歯の場合は再生能力は不要のため働いていませんが、歯を移植すると「再生させなきゃ!」と目を覚まし、骨と結びつく働きを活発にします。
ですので、移植する際は歯だけでなくこの歯根膜もしっかり残すことが重要です。
歯根膜の細胞が活性化することで、新しい場所でもしっかり根付いて、自分の歯として機能するようになります。
<移植できる人の条件>
歯の移植は、どんな人でもできるわけではありません。
また、移植した歯がしっかり定着するためには、いくつかの条件を満たしている必要があります。条件がそろっていないと、うまく定着しないこともあります。
☑ 移植する健康な歯がある
親知らずや不要な歯があり、根がしっかりしていることが必要です。
☑ 移植先の顎の骨が十分にある
移植する歯を支える骨が不足していると、うまく定着しないことがあります。
☑ 歯根膜ができるだけ健康である
歯根膜が傷ついていたり、機能が低下していたりすると、定着しにくくなります。
☑ 歯周病や重度の虫歯がない
歯や歯ぐきの状態が悪いと、移植後に感染のリスクが高まります。
3.歯の移植のメリット・デメリット
<メリット>
歯の移植は、他の治療法に比べて自分の歯を活かせる点が大きなメリットです。
ブリッジのように健康な歯を削る必要がなく、入れ歯のような違和感もありません。また、人工物ではなく自分の歯を使うため、拒絶反応の心配がなく、歯根膜が残ることで自然な噛み心地を維持できます。
条件を満たせば保険適用になることもあり、費用面でも負担を抑えられる可能性があります。
- ブリッジのように周りの歯を削らない
- 入れ歯のように取り外しがない
- ご自身の歯を使うので拒絶反応が起こらない
- 歯根膜が存在するので自分の歯で噛める
- 天然歯のため定着後は歯科矯正も可能
- 天然歯のためメンテナンスがしやすい
- 条件を満たせば保険診療で行える
<デメリット>
歯の移植にはいくつかのデメリットもあります。
痛みや腫れが出るほか、移植できるかどうかは人によって異なり、顎の骨や歯根の状態によっては適応外になることもあります。
また、生着しない場合や、定着後に歯根が徐々に溶けてしまう「歯根吸収」が起こるリスクも考えられます。
- 術後、痛みや腫れを感じる場合がある
- 術後、移植した側でしばらく食事できない
- 条件を満たしていないと適応とならない
- 生着しない場合もある
- 定着後、歯根吸収を起こすことがある
4.歯の移植の流れと期間
<移植の流れ>

①診査・診断
レントゲン撮影などの検査を行い、移植が可能かどうかを判断します。
移植する歯や移植先の骨の状態を確認し、治療計画を立てます。
②抜歯・歯の移植
移植に適した歯(親知らずなど)を慎重に抜きます。
歯根膜を傷つけないよう、できるだけ丁寧に処置を行います。
抜いた歯を移植先に移し、噛み合わせを考慮しながら固定します。
適切な位置に収めた後、固定用のワイヤーや糸で安定させます。
③消毒
移植した歯が炎症を起こさないよう、抗菌薬の使用や口腔内の消毒を行います。
定期的にチェックを受け、感染を防ぎます。
④抜糸・消毒
手術後1週間程度で、固定に使用した糸を取り除きます。
傷口の治り具合を確認し、問題がなければ次の治療に進みます。
⑤歯の神経の治療(根管治療)
多くの場合、移植した歯の神経は回復しないため、根管治療を行います。
歯の内部を消毒し、細菌感染を防ぐための処置をします。
⑥固定ワイヤーの除去
移植した歯が骨にしっかり定着したことを確認したら、固定していたワイヤーを外します。
通常、手術後1~2ヶ月程度で除去します。
⑦治癒の確認・歯の動揺チェック
移植した歯がしっかり骨に結びついているか、グラつきがないかを確認します。
安定していれば最終的な治療へ進みます。
⑧補綴治療
必要に応じて被せ物(クラウン)を装着し、見た目や噛み合わせを調整します。
歯の形や色を整え、機能回復を図ります。
⑨定期メンテナンス・経過観察
治療後も定期的に歯科医院でチェックを受け、移植した歯の状態を確認します。
歯周病や噛み合わせのトラブルを防ぐため、丁寧なケアが必要です。
<移植の期間>
歯の移植にかかる期間は、治療の進み具合や個人の状態によって異なります。
手術自体は1日で終わりますが、移植した歯が安定するまでの固定期間は約1ヶ月程度。
その後、歯の神経の治療や被せ物の処置を含めると、全体の治療期間は2~3ヶ月程度になります。
また、手術後の痛みや腫れは数日~1週間程度続くことがあります。
定着後も、長く使い続けるためには定期的なメンテナンスが大切です。
まとめ
歯の移植は、自分の歯を活かせるという大きなメリットがあり、違和感が少なく自然な噛み心地を取り戻せる点が魅力的です。
しかし、適応条件や治療にかかる時間についての注意点もあります。自分の歯でしっかりと噛む選択肢を知っておくことは、治療方法の幅を広げるためにとても重要です。
もし気になる点がありましたら、一度相談へお越しください。
抜歯をする前に、「歯の移植」を選択肢として考えることで、治療方法の幅が広がります。
自分に合ったより良い治療法を見つけていきましょう。